ヤマダホールディングスとAmazonがFireTV搭載のスマートテレビを販売。 その背景とは?

著者:家電Biz編集部
3月5日よりヤマダホールディングスとAmazonが協力したFireTV搭載のスマートテレビが販売された。ヤマダデンキの各店舗では、専用コーナーを設置し、大々的に売り場展開している。なぜヤマダホールディングスがAmazonと協力するに至ったのか?その背景をさまざまな視点から考察する。

FireTV搭載のスマートテレビを販売

3月5日よりヤマダホールディングスとAmazonが協力したFireTV搭載のスマートテレビが販売された。ヤマダデンキの各店舗では、FireTV搭載のスマートテレビコーナーを設置し、大々的に売り場展開している。売場の販売員に顧客の動向を聞いてみると、顧客の関心は高く、売れ行きも良いとのこと。3月はシングル家電製品が売れる時期であり、うまくこの時期に合わせて発売したのも、好評の理由であろう。

ヤマダホールディングスとAmazonの協力については、マスコミは「ライバル同士が手を組んだ」という論評も多かった。流通業界は成長するEコマースに対してどのように店舗が対応していくかということに苦慮している。攻めるAmazon、楽天市場に対して、店舗で商品を販売する企業は守りを固めているという構図に見える。しかし、家電業界に関しては、この構図は少し異なる。

Amazon・楽天市場が超えなければならない3つの壁

実はAmazonも楽天市場も家電製品の販売には越えなければならない3つの壁がある。
一つは、価格の壁である。

Amazonも楽天市場も売れている商品の価格帯は1万円以下の商品が圧倒的に多い。売れている商品部門としては、Amazonはパソコンや携帯電話のサプライといった商品が強い。楽天市場は、生活雑貨製品の方が強い。

家電製品も数多く扱っているが、売れているのは家電製品の中でも低価格帯商品であり、Amazonも楽天市場も3万円以上の価格帯の家電製品は実際は意外に販売できていない。最近のある顧客調査では、1万円以下の商品はネットで購入するが、3万円以上の商品は店舗で購入するという顧客の傾向が出ている。

二つ目の壁は、法律の壁である。
家電製品には、いわゆる家電リサイクル法があり、エアコン、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機、テレビは販売時に不要になった製品引き取り・リサイクル処理が義務付けられている。

Amazonのホームページには、数多くのテレビが売られているが、一部の商品しか回収のスキームを持ち合わせていない。Amazonで販売しているテレビは、リサイクル回収の必要な買い替えにはあまり対応できていない。

SDGsの意識が高まり、メーカーは販売した商品の最終処分まで責任を負うようになってきている。ということは、今後はリサイクル回収システムを持っていない流通業との取引には、慎重にならざるを得ない。

エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機の全国的な家電製品のリサイクル回収システムを持つということは、Amazonにとっても大きなコスト負担になりマネジメントの部分からしても高い壁になっている(商品の配送設置時にリサイクル対象品目を引き取る際、一般廃棄物または産業廃棄物処理業者の認可が不要となる特例は家電製品を直接販売した店舗のみであり、通常の配送業者が回収して引き渡す行為は「再委託」行為として廃棄物処理法違反になる。商品配送システムを抜本的に見直す必要が生じる)。

三つめは、メーカーの壁である。
Amazonで家電製品を取り扱う場合、Amazonのシステムでは価格が一番安い商品がどうしても上位に来る傾向がある。メーカーに取っては、Amazonで製品が売れるのはありがたいが、Amazonで取り扱うことで、価格が乱れる危険性を持つ。

Amazonは魅力的な販売先であることは分かっていても、積極的に販売に躊躇するのはAmazonで取り扱うことで、メーカーのブランド政策や価格維持が難しくなるためだ。メーカーは既存の店舗チャネルとAmazonで扱う商品等を分けて対応しているが、店舗販売の比率が高い家電メーカーは、価格維持を考えるとAmazonとの取引に慎重となる。

Amazonだけでなく、楽天市場も似たような状況であり、家電製品の売上を伸ばしていく方法として、楽天はビックカメラと連携し「楽天BIC」を作ったのもこのような背景がある。

ヤマダホールディングスが超えなければならない壁

一方、ヤマダホールディングスにも、いくつか超えないといけないことがある。
一つ目は、他の家電量販企業との差別化である。
近年、日本では、大手の家電メーカーはどんどん商品の選択と集中を行い、商品数を絞り込んできた。そのために、家電量販企業各社の店舗においての取扱商品は似ており、商品での差別化は大手メーカーの商品では出来にくくなっている。

家電量販企業各社では、差別化政策として自社開発商品やメーカーとの共同開発商品を増やしているが、その成果には時間がかかる。

家電量販企業店舗の顔としてのテレビ売り場において、他社との違いが発揮できるFireTV搭載のモデルはヤマダホールディングスにとっても他社差別化で欲しい商品である。

二つ目は顧客のライフスタイルの変化への対応である。
新型コロナウィルスの蔓延により、家にいる時間が増え、顧客は新しい価値観を持ってきている。家族や自分の生き方を大事にするライフスタイルが増えてきた。

しかし、大手の家電メーカーだけでは、その新しいライフスタイルに対応できなくなっている。バルミューダやアイリスオーヤマといった新しい家電メーカーが出てきているのもそのような背景がある。

テレビに関しては、テレビはインターネット経由で楽しむ時間が増えてきており、今回のヤマダホールディングスとAmazonのFireTV搭載テレビは、顧客ニーズに対応した商品といえるだろう。ライフスタイルに対応した商品を増やすことで、家電量販企業は顧客の変化に対応しようとしてきている。

三つ目は、家電量販企業の販売モデルから生活支援モデルへの対応である。
ヤマダホールディングスは、「くらしをシアワセにする、ぜんぶ。」をコンセプトに家電の販売だけでなく、生活支援のためのビジネスを強化してきている。

とくにヤマダホールディングスが力を入れているのが、家電製品を購入した後も安心して使っていただくための保証システムである。「New The 安心」は年会費4,015円(税込)でテレビなどの主要家電製品の長期保証が受けられる。家電製品のいわばサブスクリクションモデルである。AmazonのFireTVは、もともとレンタルされていた映画や音楽、書籍のビジネスをサブスクモデルにしたのである。このようなビジネスモデルは今後、家電量販企業でも取り組みたいモデルである。販売だけでなく、サブスクのような「利用サービス」を増やしていくのも、家電量販企業の戦略である。

お互いが補完できる関係

今回のヤマダホールディングとAmazonの協力は、お互いが補完できる関係となっている。
Amazonにとっては、FireTVの利用者を増やしていくためには、店舗での販売力を持ち、リサイクル回収システムを持った企業と組むことが必要であったこと。

ヤマダホールディングスにとっては、他社と差別化できる商品を持ち、FireTVとして新しい需要開拓が出来るというメリットがある。

今まで、ヤマダホールディングスとAmazonはライバル関係のようにマスコミで報道されることが多かったが、ヤマダホールディングは家電を中心とした販売やサービス事業を行う会社であり、Amazonはプラットフォーマー(インターネット上で利用者とサービス社に対して基盤を提供する企業)であり、競合する部分もあるが、その部分はあまり多くない。競合する部分より、むしろ協力することにより、お互いの成長を得られるメリットが大きいと言える。